列車旅は私を魅了した。
その立役者となったのは、言わずと知れた『青春18きっぷ』の存在だった。
なんとその『青春18きっぷ』は、日本ネーミング大賞2023において、レジェンド賞を受賞していたらしい!
青春18きっぷ三兄弟
青春18きっぷは春・夏・冬の3つの休暇シーズンを匂わせる。
『青春18きっぷ』というフレーズだけで、シーズンの到来をワクワク・そわそわと待ち遠しくさせるパワーがある。
とはいえ実際のところ、私が青春18きっぷを利用するのは夏だ。
いや、未だ夏にしか活用できていない、と言った方が正しいかもしれない。
春
年度末シーズンでもあり、今のところ春のワーク&ライフサイクルに、18きっぷを活用するプランを上手く組み込めていない。
しかし冬から春に移行する、おそらく生き物にとって1年で最も感動的な季節に、気候風土の異なる様々な土地を渡り歩いて、その違いや移り変わりを体感してみたいという野望を抱き続けている。
夏
新たな年度が少し進行して、おおよそその年度の見通しがつかめてくる頃、程よいタイミングで青春18きっぷへの意識が形を成し始める。
台風到来シーズンということもあり、利用期間も気持ち長めな夏は、柔軟なスケジュールの変更をする上でも、余裕があって嬉しい。
しかしながら2024年は夏の終わりに夏風邪?によって大いに体調を崩し、大人しく自宅に留まった。その顛末がこれである。
なんたる不覚。しかし青春18きっぷの旅は万全の体調で臨むのがよろしい。
冬
寒いは怖い。故に出不精。
本当は雪国を走る電車、あるいは汽車に大層憧れている。
しかし吹き曝しの無人駅にポツンと一人、延々と次の列車を待つ自分を想像してしまう。そんなシチュエーションはむしろ感動的ですらあるのだけれど、……寒いは怖い。
ここ数年、その妄想の恐怖に打ち勝つために、九州を巡って温泉を楽しむような旅をイメトレ(妄想)している。
ネーミング
鉄道旅の愛好家にとって、この上ない存在感を誇る『青春18きっぷ』は、もともと『青春18のびのびきっぷ』という名称だったらしい。
「長すぎる」という意見もあって改名したのだとか。
なんという柔軟な対応、そして確かにスッキリと色褪せない名称に、わずか1年で昇華したという事実に驚きを隠せない。
優れたネーミングとは
日本ネーミング協会では「長きに渡り、多くの人に親しまれているネーミング」を選定し、賞を授与しているそうだ。
冒頭のリンク先(日本ネーミング大賞2023・レジェンド賞のページ)に、選考の決め手となった様々なコメントが紹介されている。
とりわけ心惹かれたのは、この一文。
発売当時18歳だった人がまもなく還暦を迎えるほど長きに渡り、多くの人に親しまれた愛称である「青春18きっぷ」は賞賛すべきネーミングと評されました。
旅情、郷愁、ロマン、そして青春。
それらが心の琴線に感応する限り、その人は永遠に18歳で在り続ける。それを「不老不死」の実現であると捉えても、あながち的外れではないように思えてならないから不思議だ。
旅に出る、という通過儀礼
『青春18きっぷ』の発売開始当時、昭和の終わり頃は高度経済成長期、そしてバブルの只中。この頃は日本のあらゆる局面において、格差や陰影のコントラストがより強かった時代だろうかと想像する。
今でこそ転職をはじめ、働き方を「個」の視点で見つめ多様性を認める、という風潮が根付き始めているけれど、当時の18歳は文字通り「人生の岐路」に立っていたのではなかろうか。
目の前の選択肢の中から選んだ人、初めから一つしかない選択肢を受け入れた人、そして当然、そのどれもが受け入れ難く、かと言ってどうして良いかもわからない人も居ただろう。
それもまた、「人間」の多様性なのだから。
では、今目の前にあるもので満足できない時、人はどうするか。
探しに行くだろう、此処ではない何処かへ。
元より人間は「旅をするサル」なのだから。
やるせない思いと根拠のない期待で青春18きっぷを握りしめて、可能性を手繰る、あてのない旅に出た。
そんな名もなき旅の記憶が、きっと日本の歴史の其処此処にひっそりと潜んでいる。
そして今の時代においても継承され、『青春18きっぷ』は道に惑う者たちのきっかけで在り続けている。
そんな気がしてならないのは私だけだろうか。